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ホットミルクとビターチョコ

ホットミルクとビターチョコ

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あらすじ

目次

新たな季節がやってくる。 春、新入生を迎え入れるその時期に、片想いの相手へと告白をした。 ちぐはぐな告白はかわされ、曖昧な返事を返されて有耶無耶にされる。 半ばキープされるような状態の日々を過ごした間、心は次第にぼろぼろになり、解放されたい気持ちに変わってしまった。 一途に想ってもそれは無駄と悟り、傷付きながらも絶交を切り出す。 一時は愛を届けた相手に自らその言葉を口に出すことはとても胸が締め付けられ、涙が何度も頬を伝い、立ち上がる事は出来ずに、それでも生きるために、前に進むために時間は僕を立たせる。 「また三年のまゆみ先輩に告白して降られた奴が居るらしいぜ」 「誰なんだろうな。そんな身の程知らずはさ」 教室で匿名の誰かの噂が流れる。 「な、工藤、工藤、あれ、話聞いてんのか?」 同じクラスの男子が話しかけてきたが、あまりそういう気分ではなかったために、肘を付けて窓の外を眺めていた。 「んだよ、可愛い新入生の話をしようと思ったのによ」 それに耳を傾けるだけの余裕は無く、ビターチョコを一粒齧る。 鼻腔を擽るカカオの香りと、苦さを味わいながら、間の抜けた返事を返していた。

チャプター 1 エピローグ【大きな指輪】

幼い頃、大きな屋敷が近所に有った。

その屋敷からは日夜ピアノの音が聞こえ、幽霊屋敷等と呼ばれていた。

幽霊の正体を見破るつもりで塀を登り侵入する。

ピアノの音に誘われ、花の迷路を越えると、白いカーテンが風に靡く部屋の窓を乗り越えた。

大きなグランドピアノが音を鳴らす。

そこに人の姿は確かになく、幽霊は確かに居たのだと、確信して鍵盤の方へと向かう。

すると、そこにいたのは小さな女の子だった。

女の子に幽霊屋敷の噂の話をする。

少女はおかしそうにクスクスと笑うと、話が長くなりそうだからとホットミルクとお菓子を幾つか持ってきてくれた。

2つのコップから立ち上る湯気。

「これの美味しい飲み方教えてあげるね」

彼女のホットミルクに投じられるチョコ。

溶けていき、茶色く濁る。

「ホットミルクにはビターチョコさ」

彼女と仲良くなり、屋敷に忍び込んではピアノを聴いたり、彼女の歌を聞かせてもらったり。

そんな彼女に次第に惹かれていき、淡い恋心のようなものを抱いていた。

けれど、別れは唐突に……。

父親が仕事の関係で赴任先が代わり、家族みんなで引っ越しをすることになったからだ。

彼女に最後の別れを告げなくてはならない。

けれど、この気持ちは最後に伝えておきたかった。

部屋に置かれた遠方のお土産。

それを手に彼女の元へと向かった。

彼女は変わらず何時ものようにピアノを弾いていた。

揺蕩うカーテン。

クラシックな音楽に感情を揺さぶられ、気が付けばそこで涙を流していた。

いつもは簡単に跨げる窓枠も、その時だけは高く感じられ、けれど、時間はあまり残されておらず、顔を袖で拭うと、勢い任せに飛び込んだ。

彼女の驚いた顔が目に入り、顔に笑顔を貼り付けて、側に寄る。

「僕は貴女を好きでした。これを貴女に……いつか必ず迎えに来るから……僕の事忘れないでね」

少し大きなラピスラズリの指輪。

それは当然ながら彼女の指にはハマらず、けれどその不恰好な指輪を彼女は大事そうに抱えて笑顔を向けていた。

「僕の事……忘れないでね」

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