普通の女の子だったエミリーはある日、警察からの電話で人生が変わった。あれから起こった何もかもが彼女にとって非日常だった。 やがて、彼女は長い間付き合っていた彼氏ジャック·グーが、自分の一番の親友と浮気していることに気づいた。さらに悪いことに、彼女はうっかりジャックのおじさんの車に乗ってしまい、その車の中で彼とアレをした。エミリー、元彼のジャック、ジャックの叔父ヤコブ…三人の修羅場の物語が始まった。.
ジンシ市 、午後8時。
長かった残業を終えてクタクタで家に帰る途中のエミリー・バイのスマートフォンが突然鳴った。電話の相手は警察だった。
「もしもし。 こちらはバイさん のお電話で よろしかったでしょうか?」 と尋ねてきた警察官に 「えぇ、そうですが」 とエミリーは答えた。 「あなたの友人だと言う、ジャック・グーとローズ・シューが売春防止法違反の疑いで逮捕されましてね。 2人とも、デートのためにホテルで待ち合わせしていた、と主張しておりまして。 バイさん。これから署に来ていただいて、ジャック・グーとローズ・シューが本当に恋人同士だと証言していただくことはできますか?もし証言に信憑性があれば、両人とも釈放できるのですが…」
あまりの衝撃的な電話にエミリーの身体は凍りつき、ピクリとも身体を動かすことができなくなった。 エミリーはまず心を落ち着け、思考回路を復活させ、頭の中で文章を整理してみた。それでも警察官が言っていること、自分に求められる役回りがまったく理解できなかった。 エミリーは自分が警察官からの電話を切ったことにすら気づかなかった。しかし、どういうわけか警察署までタクシーに乗っていたのだった。
警察署にて
警察署のホールに入るなり、エミリーはそこに座っている男性と女性が誰かということがわかった。 男性はエミリーの恋人であるジャック・グーであり、ジャックの隣に座っているのはエミリーの友人であるローズ・シューだった。 2人は新婚旅行に出発するカップルのようにお互いにベッタリと寄り添っていた。
エミリーは拳を握りしめた。瞳に地獄の炎が見えるほど怒りに満ちた彼女は2人のもとへと歩み寄る。 1歩、また1歩。エミリーは自分の足が鉛のように重く感じた。
彼女は先にローズと目が合った。 「本当にごめんなさい、エミリー…」 目が合った瞬間に立ち上がって謝罪の言葉を口にしたローズだったが、目は噓で満ちているわかりやすいほど上っ面だけの謝罪だった。
恋人であるエミリーが警察署にやってきたことを、ジャックは振り返えってようやく知ることとなった。 すると、エミリーが口を開く前に、ジャックはローズなどお構いなしに押しのけ慌てて立ち上がった。 「やぁ、エミリー…」ジャックの声はおどおどしてか弱かった。
まだ気が動転しているようで、わざとエミリーと目を合わさないようにしていた。 そして、エミリーと向き合う勇気を失った彼は身体が痺れているようだった。
「エミリーに全部話してよ、ジャック」とローズは思わせぶなり言葉をジャックにかけた。
「もういい。 黙れ! 今はそれどころじゃないだろう!」 とジャックはローズを睨みつけ「これ以上、何も言うな!」を釘をさした。 そして、あらためてジャックは再びエミリーの方を向いた。 「エミリー。後で、すべて、正直に話すことを約束する。でも、今は警察官に俺らが無実であることを証明してほしい」とジャックは当然のことのように彼女に口裏合わせを要求してきた。
そして彼女に手を差し伸べてきたが、エミリーがその手に触れることはなかった。 エミリーは「後で私にちゃんと説明して」と答えをなんとか絞り出した。 が、エミリーがジャックを見つめるさまは嫌悪感でいっぱいだった。
必要な事務処理と手続きを経た後、ジャックとローズは釈放され、3人が一緒に警察署を出た。
「ジャック、どうしてこんなことをしたの?私に申し訳ないと思わないの?!」 エミリーは警察署の門を出ると すぐに大きな声で怒鳴った。
「俺の話も聞いてよ、エミリー…」 ジャックは眉を八の字にし、 神にすがるようにエミリーの手を握ろうとした。
「あなたからはひと言も、何も聞きたくないわ!お縄になったからじゃないわよ。浮気をしていたとはね!」 エミリーはピシャリとジャックの手を払いのけた。 「買春行為だと認定されて警察に捕まられたことに対して、どう感じた?本当は何が起きたのかを知っていたら、あなたを助けるために警察署になんて来るわけなかったわ!!」 エミリーは怒りと失望で混沌としていた。 そう言い放つと、赤く縁どられた瞳からこぼれる涙をぬぐった。
ジャックとローズが結託して警察官に「エミリー・バイという女性に電話してくれ。エミリーは自分らを無罪だと証言してくれるはずだ」と、悪知恵に神経質を使ったかと思うと、エミリーは胃が痛くなってきた。 まあ、ジャックとローズがエミリーを不機嫌にするためにそうしたのだとしたら、彼らは望んでいたものを手に入れたのだ!
心身ともにボロボロなエミリーに追い打ちをかけるように、ここでジャックが開き直った。 「あぁ、俺はローズと寝た。セックスしたよ。それがどうしたというんだよ!」
ジャックのその言葉にエミリーはめまいがした。 やっとの思いでなんとか立っていた。 ジャックはフラフラとしている彼女を助けようと近づいてきた。が、彼女は何か汚れたものに触れた時のように、ジャックを押し返した。
「私に触らな いで!」
ジャックはエミリーのこの言葉で、心臓にまるで1,000本の針が刺されたようなショックを受けた。 「エミリー…」と子細い声で呼び止めると「他の女の子のことは忘れてよ」と猫なで声で語りかけてきた。 「俺が愛しているのは君だけだよ、エミリー。唯一無二の存在だよ、エミリー」
ジャックの言葉にローズは嫉妬したが、ずる賢いローズは、理解ある女のふりをしてエミリーを穏やかな口調で説得しようとした。 「彼の言う通りよ、エミリー。 あなたとジャックはお互いになくてはならない存在よ。 私、ジャックをあなたから奪うこと…できなかったわ…」
「黙れ!あなたには何も言う権利などない!この恥知らずの尻軽女めが!!」 エミリーは怒りで歯を食いしばりながらローズを激しく罵った。 「終わったわね…ローズ、 私たちはもはや友達なんかじゃないわ」
「エミリー、そんなこと言わないで…」 ローズは悲しげな口調で懇願したが、その目はまるで違っていた。つまり、ローズは、自分の不器用さによって、不満と傲慢さが露になっているということだ。
そう。ジャックがいなかったら、エミリーはローズとは友人関係にはならなかったのだ! とりあえずエミリーはローズの保釈に力を貸した。そしてローズは保釈となった。これ以上、エミリーがローズに骨を折ることなど何もない。
「エミリー、いい加減にしろよ」とジャックは焦った。 「俺は約束したじゃないか。君だけを愛し、結婚するって。他に何が必要だというんだい?」 口先だけで繕うとするジャックの考えが手に取るようにエミリーにはわかった。
「いい加減にしてって?」エミリーの声は低かった。 「愛とは、永遠を誓った女性以外とセックスして、永遠を誓った相手に言わず、嘘をつき続けるという意味なわけ? 悪いけど。私はそんな愛なんてクソくらえよ!」
「俺が君を愛するだけで十分だろう?そうじゃないのかい?」
「十分ではないのよ。 愛には貞操が必要だろう? でも、あなたは貞操を守れなかった!そうだろう?」
エミリーが幼い子どもを諭すように語った。そのエミリーに対してジャックが、いきなり大きな声をだして爆笑しだした。余りにも子供っぽい、青臭い言葉を真剣に訴える姿に、それまで子犬のよう瞳で、すがるようにエミリーを見つめていたジャックが。 「エミリー。俺の父はグー一族のトップだ。俺はグー一族の長男だ。しかも1人息子」ひとしきり笑い終えたジャックはエミリーに淡々と語りだした。 「そんな俺のそばにいる女性が生涯1人だなんてありえないだろう?そもそも、結婚しようと、独身だろうと関係ない。エミリー、君、わかってないんじゃない?俺と結婚する前に、君はその点を大いに学ぶ必要があるようだね。 まあ、できるだけ早く理解してくれることを願うよ」
まるで別人のようにジャックは自信に溢れ、 雄弁だった。
「しかし妻の座は君だけだ 。法的な妻は君だ」
ジャックは頭の中では、エミリーがそのロマンチックで魅力的な言葉に感動し、感動にこらえきれなくなった彼女が自分の胸の中に飛び込んでくる、という映像が流れていた。
パーンという乾いた音が響いた。 それは、エミリーが思いっきりジャックの頬をひっぱたいた音だった。
ジャックは顔を刺されたと思ったほどにスパーンと気持ち良いくらいに。 彼の頬にできた、スタンプで押したようなエミリーの手の形を街灯が照らしていた。 ジャックが後ろにふらっとよろめいた。その目はさっきの自信が噓のように輝きを失っていた。
なぜエミリーがジャックに平手打ちをしたのだろうか?
ローズはその光景を呆然と見ているだけだった。 しかし、ふと我に返えりジャックを介抱しようとするも、当のジャックは、大丈夫だというふうにローズの親切を押しのけた。
「エミリー、何をしたかわかっているのか!」 ジャックは怒りに震えながらエミリーに声を荒げた。
銀のスプーンを口に入れて生まれたジャックは、この世に生を受けて以来、誰にも叩かれたことなどなかった。親にさえも。
荒唐無稽な理論を、さも常識だと言わんばかり自信に満ちて述べたジャックに、エミリーも怒りに震えていた。 「今まで、あなたがどれほど非常識で傲慢であるか、私はまったく知らなかったわ」
夫を他の女性と共有するのが当たり前? ジャックはどうしてそのような思考に至ったのだろうか?
エミリーはジャックを真っ正面に、真っ直ぐ見つめていた。そしてなぜか奇妙な感覚がしていた。まるでジャックが赤の他人、今、この場で、たまたま出会った人であるかのように。
「ジャック、私はあなたと別れるわ。 終わりよ」
エミリーは立ち去ろうした。疲れ果てて、もはやこんな三文芝居に付き合う気力など残っていなかった。 エミリーは心の中に恨みを抱えていたが、ジャックはあまりにも別次元の思考回路で生きているとわかった今、彼の言い訳を聞くことすら意味がない。さっさとこの場を去るのことが得策だ。
「認めないからな!」 ジャックはエミリーの背中に向かって叫んだ。 突然、彼に、自分にとって最も貴重で、かけがえのない人物を失う喪失感が押し寄せてきた。
しかし、エミリーを追いかけようとしたとき、ローズが彼を後ろからしっかりと抱きしめた。
「ジャック、私を置いていかないで…」ローズはジャックの力いっぱいジャックを抱きしめ 、彼の耳元で囁いた。 「ジャック。 エミリーは今、 頭に血が上り過ぎて冷静な判断ができないわ」
ジャックはローズの言葉に納得し、落ち着きを取り戻した。
何世紀にもわたって栄華を誇るセレブリティの家系であるグー一族は、市の政治力の中枢を財力においても担っている一族であった。 彼ら一族は、この町ではやりたいことは何でもできた。 ジャック・グーは直系男子である父の唯一の息子であり、相続人であり、この町では比類なき権力を持っていた。 と、ともに、ジャックは印象的な美貌にも恵まれていました。 エミリーはこれほどの男性、ジャック以上の男性を、他にどうして見つけることができるのだろうか?
二人の関係を考えるため、クールダウンに数日置くことはエミリーとってよいことだとジャックは考えた。 もちろん、ジャックも延々と待つつもりはなかったが、数日もすれば、自分がどんなにエミリーを愛しているかということを彼女が気づくだろうとジャックは考えていた。 しかし、もしエミリー以外の女性がジャックを平手打ちしていたとしたら、その女性の手を折っていたかもしれない。
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