3年前, テレンスはジョアンに恋をし、 二人は婚約を結んだ。すべてはうまくいったはずだが、ある日、酔っぱらったジョアンの姉のジュリアが、テランスと一夜を過ごしてしまった。 事態の急変により、テレンスはついにジュリアと結婚し、ジョアンは別の国へ行くことを決意した。 しかし、その夜以来、テランスは一度もジュリアに触れておらず、彼女に対する憎しみは日増しに募っていった。 ジョアンが戻ってきた日、テランスはすぐにジュリアとの離婚を決意した。ジュリアがどんなに懇願しても、彼の決心は揺らなかった。 姉と愛する男に裏切られたと感じたジュリアは、あのふたりに復讐すると誓った。
今日はジュリア・グーにとってとても重要な日だった。 彼女のエージェントのコンスエラ・シェンは、今夜賞を受け取る予定だということを彼女に知らせたばかりなのだ!
ジュリアはテレンス・チェンにこのことを知らせたくて待ちきれない思いだった。
しかし、何回ビデオ通話をかけても彼は応答しなかった。 ジュリアは気にせず、また掛け続けた。 そして、5回目、ようやく彼は電話に出て、 「どうした?」と言った。
その声は通話画面を見なければ本人かどうかわからないほど冷たかった。
「どこにいるの?」 ビデオチャットが接続された瞬間、ジュリアは目を細めた。 彼のすぐ後ろには、Hシティの悪名高いモーテルの大きな看板–ダブルQがあった。
このモーテルは、ワンナイトの相手を探している人や浮気を楽しむ人にとって有名な場所だった。 ここでは頻繁に不倫が行われていたので、不倫スタジアムとあだながついていた。
偶然にも、ジュリアが演じた新作映画はダブルQで撮影されたため、彼女は非常にその場所に詳しかった。
それを見て、彼女は血管が飛び出しそうなほどの力でスマホを強く握りしめた。
かんしゃくをこらえたジュリアは、微笑みながら、皮肉な声を出した。 「チェンさん、 モーテルに行ったのはビジネスのためなの? 素敵だわ」
彼女がそれ以上話す前に、テレンスは素早く電話を切った。
彼女は歯を食いしばって、足を踏み鳴らしてラウンジから出て行った。 「アビー、車の鍵を頂戴」
「ジュリアさん、パーティーはあと2時間で始まりますよ」アビーは困った風にジュリアを見つめながら答えた。
「私の言ったこと、聞かなかったの?」 ジュリアは問いただした。 不機嫌になった彼女を見て、アビーは凍りつき、手が小刻みに震えた。 その時、コンスエラは彼らに近づき、 アビーに立ち去るよう指示し、不満で口を尖らすジュリアの腕をつかんでラウンジに引き戻した。
「ばかなの? ここにどれだけ人がいるかわかってる? ここに立っていられるのはどれだけ大事なことかわかってるよね。 誰でもあなたのスキャンダルが書けるのよ。 こんな態度でいたら、間違いなく明日のトップ・ニュースになるでしょ!」 コンスエラは両手を挙げて憤慨した。
「もう、 そんなの、どうでもいいわ!」 ジュリアは鼻をならした。 今、この瞬間、夫がバーとかで出会った女と浮気をしているかもしれないのに。 赤の他人の反応を気にする余裕などはなかった。
「お願い、コンスエラ。 1時間だけでもいい。 夫と会わなきゃだめなんだから」彼女はエージェントの手首をつかんで懇願した。 それにしてもコンスエラの態度は変わらなかった。
「ここまでにきて、私がどれだけ工夫したか忘れたの? このイベントが終わるまでは 隕石がふってこようと外には出させないわ」
「コンスエラ...」 嘆願がエージェントに効かないことを知って、ジュリアは正直に話すことにした。 「実は、 テレンスはいま、浮気しているの。 これから2時間も何も知らないふりをしてこのまま黙っていられないのよ!」
「またこのくそ野郎!」 コンスエラは激怒して青ざめた。 そして、ジュリアのほうに向けてこう言った。 「君は素晴らしい女の子よ、ジュリア、でもこんなのばかげてるわ! あの男はあなたを愛していないのよ。 もう結婚して3年になるけど、私以外に あなたたちの結婚を知っている人なんているの? こんな関係今すぐやめるべきよ!」
「それはわかってるよ」 ジュリアは苦々しく笑った。 「私はただ... ただ、彼と一度でも話したいだけ」
ジュリアは目の前のコンスエラをちらっと見た。 「彼のことは大好きだから、別れる決心がなかなかつけなかったのよ。 私... もう13年も彼のことを.. もし他の女と一緒にいるのを見たら、私はあきらめるかも」
「ジュリア」 コンスエラは眉をひそめた。 「ほら、私ならいつでも、どんな問題でも解決できるわ。でも今は適切な時期じゃない。 今夜はおとなしくしてちょうだい」
「お願いだから」 涙が目からあふれ出しそうに、ジュリアは何度も何度も懇願した。
それでも、コンスエラは少しもその場から動くことなく 腕を組んで戸口をふさいでいた。
「君、ダイエットしたほうがいいんじゃない?」 ジュリアは不満そうに言った
しかし、コンスエラは彼女を睨み返しただけだった。
コンスエラはジュリアがどんな人かよく知っていた。 彼女は欲しいものを手に入れるためにはどんなことをやってもいとわないのだ。 「テレンスにもこういう態度だったら、こんなことにはならないでしょ」
コンスエラは時計をちらっと見た。 「ディナーパーティーまであと1時間50分残ってる。 50分よ。 何があっても絶対に戻ってきなさい」
「わかった」 ジュリアは涙をぬぐい、ドアから急いで出た。
気づかないように、彼女はゆったりとしたコート、サングラス、またマスクを身に着け、 一心不乱にダブルQに向かって走った。
ここで撮影していたことがあったから、ジュリアはすぐに受付人からテレンスの部屋番号を手に入れた。 彼女は急いで階段を駆け上がり、怒りに任せて力を込めてドアをとんとんとノックした。
テレンスが別の女性を抱いているところを想像するだけでジュリアは吐き気がこみ上げた。
誰もが何が起こったのかを見るために部屋に群がった。 ジュリアは鼻をならし、 「テレンス、隠れてないで、この臆病者! 私から隠れられると思ってるの? ドアを開けなさい!」と、怒鳴った。
ドンという音と共にドアはきしむように開き、 ジュリアは突然、自分がドアの中に引き込まれていることに気づいた。
顔を上げると同時に目にはテレンスの全く無関心な顔が飛びこんできた。 彼はまるで何も悪いことをしていないかのように彼女の前に立っていた。
「よくやったな、お前!」 彼は腕を組んだ。
「ビデオ通話にも出ずにモーテルで寝る?」 ジュリアは彼を押しのけ、彼を盗った女を見ようとした。
部屋が信じられないほど広かったので、ジュリアはその女を探すのに別の廊下を渡らなければならなかったが、誰かとぶつかった。
痛む額をこすっていると、反対側から悲鳴が聞こえ、 テレンスは急いでその女のところに行って、彼女を助け起こした。
ジュリアはその女を見てあきれた。
「君?」 ジュリアが驚きのあまりすぐには声が出なかった。
「そうよ」 女性は挑発するかのように眉を上げ、テレンスの腕に寄り添った。 「久しぶりね、姉さん」
その女性は彼女の妹、ジーン・グーに他ならなかった。
ジュリアはその女が自分の妹なんて夢にも思わなかった。
「君たち...」 いろいろな考えがジュリアの頭をよぎった。
ジーンはとてもセクシーな服を着ていた。 白いレースが彼女のなだらかな体を包み込むように首の下を飾り、ブラジャーの柄がかすかに見えた。
ジュリアは水から出た魚のように口をあんぐりと開けた。 彼女は他に何を言うべきかわからなかった。
なんといっても、3年前にジーンからテレンスを奪い取ったのはこの自分なわけだった。
ある夜、彼女は元彼にが麻酔をかけられ、ある謎の男に利用された。二人は淫乱で恍惚の一夜を過ごした。 復讐をするため、彼女はその男と結婚し、彼を利用した。 「私が生きている限り、彼の妻はこの私だ。あんたらは泥棒猫にすぎないわ」 彼が他の女性とのスキャンダルに巻き込まれたときでさえ、彼女の決心は揺らなかった。 結局、また彼に裏切られたと知ったとき、彼女は怒って立ち去った。ところが数年後、彼女がまた彼のもとに戻った。彼は驚いた。彼女から欲しいものを全て手に入れた彼が、何故まだ彼女を苦しめようとしているのか、彼女には理解できなかった。
ヒロイン【みくり】は、物心付く前から卓球漬けの英才教育を受けて育ち、中学二年生でオリンピック【卓球U-15】銀メダリストになった。 自覚は無いが、小柄で超可愛い顔立ち、卓球で鍛えられた身体はスレンダーで美しく見える。 中学三年になると、胸が急成長を開始‥‥更に成長期は終わっておらず、身長は伸びないが胸だけ成長していった。 そして、それは彼女をドン底に突き落とした。 胸が邪魔で卓球の未来が潰えたのだ。 それでも卓球特待生の誘いは多校あったが「オリンピックで上位を狙えなくなった以上、先に進めない」と断ってしまった。 またアイドル転向のスカウトもあったが「目立つのは好きじゃない」と断って、公立高校に通う事に。 市立日樫高校へと進学し、みくりは男子卓球部の女子マネ兼コーチとなって全国制覇を目指している努力の人。 一方、主人公の【真和】は、両親が卓球部上がりで恋愛結婚した環境に育つ。 しかし、反抗期だった彼は、両親が中学の部活に卓球を勧めてきたのを撥ね退け、趣味だった囲碁将棋部に入部した。 元々、運動音痴だったのだ。 身体の柔軟性は皆無‥‥前屈しても手は届かないし、ブリッジをすると台形になる。 足は速くもなく遅くもないが、持久走はビリッケツ。 握力は女子にすら負ける最低記録保持者で、反射神経も鈍い。 体育以外の全ての教科は、一切、宿題・予習・復習をせずとも、授業だけで平均点以上が取れる【努力とは無縁の天才肌】。 高校進学が決まって、声変わりも反抗期も終わり、親孝行の精神が芽生え、卓球部への入部を決意したのは良かったのだが‥‥。 ※この小説はフィクションであり、登場する人物や団体などは、現実とは異なります。 ※オリンピック種目としての【卓球U-15】も現実には存在しません。